夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

新型インフル ー生ハムが不安? 不安なのは知らないからー

 豚インフルエンザから変異した新型インフルエンザH1N1ですが、報道がやや加熱し過ぎのように感じます。マスコミは、不安を必要以上にあおる「恐怖商売」をしてはいけません。

 新型インフルの発生に伴う豚肉への不安に対し、世界保健機関(WHO)がさかんに安全性を強調しているのが功を奏してか、風評被害は最小限に抑えられそうな状況です。これが、日本の農水省だけの説明であったら、国民はこれまでの同省(トップ)の数々の不祥事を目にしているだけに、安全性の発表が真剣に受け止められたか疑問に思うのは私だけでしょうか。

 豚インフル発生後の4月26日ぐらいから、新型インフルと豚肉の安全性のことをブログに何度か書きましたが、アクセス状況を見ながら私が感じたのは、人の不安の対象が”変異”していることです。
 豚インフルが発生 → 「”豚”インフルだから、豚肉が危ない」 → メキシコで多数の感染者 → 「メキシコ産の豚肉が危ない」 → 豚肉は加熱すればウイルス死ぬらしい → 「じゃ、生ハムは危険?」のように。

 豚肉に不安を感じるのは、ウイルスの性質や食品衛生のことを知らないからです。そもそもウイルスは細菌と違って食品中で増殖しませんし、食品原材料中に病原ウイルスはほとんど存在しません(生ガキに含まれるノロウイスルなどの例外はありますが)。WHOは「生ハムも大丈夫」とわざわざ発表しましたが、その製造過程などを知っていれば、生ハムが安全なのは当たり前の話です。

 漠然とした不安は、心の中のいろいろなところに飛び火します。その火を消火する道具(不安消火器)は、”正しい知識”しかありません。不安の元を勉強してまず知ることが大事です。

 正しい知識を得ても心配に思うことは、不安ではなく”恐怖”です。人は対象がわからない不安には正しい対応がとれませんが、対象が明確な恐怖に対しては、なんとか対策がとれるものです。

 例えば、体調が悪くて不安を抱えながら病院に行ったとき、いざ病名が付くと何となくほっとするのも、原因が分かってきちんとした対応がとれると思い安心するからでしょう。

 見知らぬいかつい顔の人のことを怖いなと思っても、いざ話してその人のことを知ると、意外とそうでないことが分かるのと一緒で、新型インフルの不安、豚肉の不安に関しても、ウイルス自体や食品衛生のことをもっと知ることが大事です。