夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

そば粉が何%入っていれば「そば」といえるのか?

 昨日のブログ*1の続き。
 生めん(生麺)と乾めん(干しそば)で表示の基準が異なります。

  • 生めん

 生めんについては、不当景品類及び不当表示防止法に基づく「生めん類の表示に関する公正競争規約」が定められており、その中で「そば粉30%以上」の製品について「そば」との表示が認められています。

  • 干しそば

 干しそばについては、日本農林規格(JAS)法に基づく「乾めん類の品質表示基準」にそば粉の配合割合による名称の使用の可否について、特段の規定は設けられていません。つまり、乾めん含量の95%が小麦粉で、たった5%のそば粉しか使われていなかったとしても、その製品を「そば」と呼んでも問題ないという規格です。蕎麦は”ざるそば”で頂くことが多いだけに、JAS法は”ざる法”だったというわけです。
 しかし、ごく最近(平成21年4月9日)、この「乾めんの表示」に関してのJAS法が改正されました*2。以下、関係するところを抜粋します。

(義務表示事項)
第3条第2項
干しそばにあっては、製造業者等がその容器又は包装に表示すべき事項は、加工食品品質表示基準第3条第1項及び第6項並びに前項に規定するもののほか、そば粉の配合割合とする。ただし、そば粉の配合割合が30%以上である場合は、この限りでない。
(表示の方法)

第4条
名称、原材料名、そば粉の配合割合及び内容量の表示に際しては、製造業者等は、次の各号に規定するところによらなければならない。
(3) そば粉の配合割合
実配合割合を上回らない数値により「2割」、「20%」等と記載すること。ただし、そば粉の配合割合が10%未満のものにあっては、「1割未満」、「10%未満」等と記載すること。

 改正点を分かりやすくいうと、干しそばは「そば粉の配合割合が30%未満であれば、必ずその配合割合を書きなさい。そば粉が30%以上あれば、配合割合は書いても書かなくてもよい」ということでしょう。

 結局、そば粉含有量が10%未満の製品であっても、そば粉を使っていれば、それは「そば」といってもいいということのようです(ただし、そば粉の配合表示は義務)。また、そば粉含有量が30%以上あれば、その配合割合の表示はしなくてもよく、改定後も、実質ほとんど変わらないといっていいでしょう。

 製麺会社は、そば粉の配合割合を表示しなくてもいい30%付近を狙って作ってくるでしょう。「そば粉配合10%」と表示してしまえば、「それしか入っていなかったの?」と消費者が気づかれてしまいますから。

 しかし、原材料で小麦粉が先に書いてあれば、結局そば粉の割合が50%は切っている「そば入りひやむぎ」だということが知っている人には分かってしまいます。製粉会社は、小麦粉よりもそば粉を先に書きたくなる衝動にかられることでしょう。

 この改正が実際、施行されるのは、今週末の平成21年5月9日からとなっています。昨日のブログで取り上げた4月30日の事件(「深大寺そば」の会社が、原材料欄に「そば粉、小麦粉」の順で表示し、そば粉の方が多いように装ったこと)に対して、わざわざ警察が本社や工場、社長宅など約5カ所を家宅捜索までしたのは、この改定の施行前に、製麺業界全体に知らしめようとする行政側の意図があったのではないかと私には読みとれます。つまり、家宅捜索までしたのは、「不正表示したらこうなるよ」という、いわば業界に対する警告のための”見せしめ”だったのでしょう。

 しかし、乾めんの蕎麦は、今後も「小麦粉>そば粉」の製品があふれることになるでしょう。私は、裏の原材料表を見て今後も「小麦粉<そば粉」ものを選んでいきたいと思います。”まっとうな蕎麦”を作っている会社を今後も応援していきたいです。