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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

「へしこ」の科学的解明

食料品 食品保存

 福井県の特産「へしこ」をご存じでしょうか。へしことは、鯖に塩を振って糠漬けにした郷土料理で、若狭地方の伝統料理です。

 私は一度だけ食べたことがあります。塩味がかなりきついですが、辛口の日本酒によく合います。そんな「へしこ」の製造方法に科学のメスが入ったというニュースから。
wikipedia:へしこ)

へしこ:若狭地方の保存食、大学の研究対象に 製法解明や減塩製造 /福井

 サバなどの魚をぬか漬けにした若狭地方に伝わる保存食の「へしこ」が、大学の研究対象になっている。塩分を減らした製造法の開発も進められ、さらに親しまれて広く食べられる可能性を探っている。【高橋隆輔】

 県立大海洋生物資源学部の大泉徹教授のグループは、へしこの伝統的製法の科学的意義を解明し、3月に東京で開かれた日本水産学会で発表した。

 大泉教授らが調査したのは、伝統的製法で鉄則とされる▽水をぬかの上に張る▽夏を越さなければならない▽高い塩分濃度で漬ける−−の3点の理由。

 研究の中で、へしこの発酵には酸素のない状態で働く乳酸菌が深くかかわっていることが判明。水を張ることには、空気とへしこをふれさせない役割があった。

 また、温度を10度、20度、30度にそれぞれ保つと、うまみ成分のアミノ酸やにおい成分は、低温では増えなかった。さらに塩分濃度を半分程度に落とした条件では、乳酸菌が増えすぎて酸味が過度になってしまった。

 大泉教授は「仕組みが分かるほどへしこはよくできた食べ物に思えてくる」と話し、今後はにおい成分や色素についても詳しく解明して、研究成果をさらに地元に還元したい考えだ。

   ◇  ◇

 一方、まったく新しいへしこの可能性に挑戦しているのが、福井大工学研究科の末信一朗教授だ。

 へしこは塩分が多いため調理法が限られ、食べる人の好みもはっきり分かれてしまう。末教授は塩分量を減らすことに取り組んだ。

 日本酒の生産期間短縮技術を応用し、あらかじめ乳酸菌を添加したぬかを使用することを発案。乳酸菌の殺菌力を利用することで塩分量を6分の1まで低減させ、発酵期間も従来の4分の1程度の3カ月にまで短縮することに成功した。

 塩には身を締める効果もあるため、食感が柔らかくなることや、最適な塩分濃度の解明などは今後の研究課題として残る。しかし、アミノ酸に変化するペプチドは、伝統的なへしこよりやや多いといい、出来上がりはまずまずという。末教授は「これをへしこと言っていいのかは分からないが、新しい観光資源となって嶺南地域の活性化につなげられたらうれしい」と、さらに技術確立に意欲的に取り組むつもりだ。

毎日新聞 2009年4月24日 地方版

 伝統料理というのは、いわば「超ロングセラー商品」です。食品が長い間作り続けられるためには、保存性が高い、おいしい、作り方が簡単などのまっとうな理由がなければ、すぐに歴史上から消滅します。

 へしこに関わらず、これまで生き残っている伝統的な食品を科学的に調べれば調べるほど、その製造方法や保存方法がいかに理にかなっているか分かるはずです。科学的な知識を全く知らないにも関わらず、経験とカンだけでさまざまなスーパー食品を生み出してきた昔の人達の知恵にはただただ頭が下がるばかりです。

 そう考えると、現代人は、昔の人達と比べて「はたして優れているのか」疑問がわいてきます。現代人は知識だけ多い頭でっかちの存在で、生きる上での大事な部分はむしろ「退化」しているのではないかと常々思うのです。