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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

老化を遅らせる「iFood」って何?

 先日のクーリエジャポン4月号で、面白いなーと思ったのが「iFood」の記事でした。私、初めて目にしました「iFood」という言葉。AppleiPod(アイポッド)やiPhone(アイフォーン)のように、iFood(アイフード)という発音するのでしょうか。お洒落なネーミングとは裏腹に、iFoodの概念は斬新です。


 老化防止に役立つとされるiFoodがどんな食品か書く前に、老化のメカニズムについてちょっと説明します。老化を引き起こす説はいろいろありますが、現在最も有力な説は「活性酸素有害説」です。代謝により生体に生じる活性酸素は、反応性の高い”暴れん坊”なので、体の中で大切な働きをしているDNAやタンパク質などを攻撃し、機能不全や細胞のがん化などを引き起こすといわれています。活性酸素との反応は”酸化”反応なので、「体が錆びる」ともいいます。この有害な活性酸素から体を守るのが、”抗酸化物質”で、代表的なものにビタミンCやβカロテンなどがあります。

 ロシアの生化学者、シュチェピノフ(Shchepinov)は、活性酸素の働きでも壊れない分子を作ることができないかと考え、注目したのが”同位体(isotope)”でした。同位体は、同じ原子でも中性子を多く持つため、質量が重くなっており、同位体を持つ分子の結合は、通常の分子と比べて強力になっています。例えば、水素(H)の同位体である重水素(D)の水素結合は、Hと比べて80倍の強さがあるとのこと。

 重水素と酸素を結合させてできるのが”重水”で、見た目は普通の水と変わりませんが、文字通り重く、重水から作った氷は水に沈む性質などがあります。この重水などを使って作られた農作物や畜産物などが、「iFood」と呼ばれているようです。つまり、同位体が含まれるiFoodを食べることによって、それら同位体を体に取り込み、タンパク質などの体の構成成分にすることで、活性酸素に対して抵抗性を発揮しようというものです。

New Scientistから)

 実際、体内の水分を重水に置き換える動物実験をしたところ、少量のものは長く生きる結果が出たようです。しかし、体内全体の25%を超えたあたりから有害となり、35%を超えると逆に死を招くとのこと。

 原理的に同位体の結合安定性が、活性酸素に対して防御効果がありそうなことは分かりますが、同位体分子は元の分子と性質が違うでしょうから、少量の摂取でも他の問題を引き起こさないか私は心配です。また、同位体というとどうしても”安定同位体”というよりも”放射性同位体”を想像してしまうので、被爆国日本では、「iFood」というかわいいネーミングであっても、実態を知れば抵抗を感じる方も多く出ることでしょう。まだiFoodの研究ははじまったばかりのようですので、これからいい面も悪い面も明らかにされて、その有効性(+有害性)が分かってくるでしょう。

 iFoodをもっと詳しく知りたい方は、元ネタのNew Scientistの記事をご覧下さい*1。そのウェブサイトで、試薬の重水をスプーンで飲みながら、iFoodを解説する方の映像があります。重水は「ちょっと甘い」のだそうですよ。

*1:New Scientist: [http://www.newscientist.com/article/mg20026841.800-would-eating-heavy-atoms-lengthen-our-lives.html?full=true#bx268418B1:title=Would eating heavy atoms lengthen our lives?]