夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

日本の科学の行方

 科学を金儲けか、せいぜい生活の道具としか見ない風潮が、今の日本に溢れているように感じます。とくに、政界や財界にその傾向は強いと思います。

 昨年は、日本人のノーベル賞受賞が話題をさらいましたが、日本の研究を取り巻く環境は、年々短期間で結果を出さなければならないスピード重視の時代となり、ノーベル賞級の研究はますますできにくくなっています。今後数十年間は、日本からのノーベル賞はそうそう出ないでしょう。日本人でも、海外流出組(ノーベル物理学賞の南部さんやノーベル化学賞の下村さんのような方)からの方がはるかに期待できます。

 研究するには研究費を捻出しなければなりません。公的機関、民間からのいろいろな研究費がありますが、その研究費をゲットするためには、研究の目的や意義、そして”期待される結果”などを書いた実験計画書を出さなければなりません。つまり、すでに結果ありきの計画なのです。

 研究計画通りに進まず、予想した結果が出ないこともあります。むしろ、出ないことの方が多いでしょう。心理的にダメージを受けますが、予期せぬ結果に内心ワクワクするのも事実です。

 私の行っている食品研究は、まさに実学のど真ん中ですが、何に役に立つか分からないような基礎研究の方に興味が強いです。あまりバリバリの基礎研究を研究助成の申請書に書くと、研究費は稼げませんから、科学的に面白そうでなおかついずれ役に立ちそうなあたりを狙うのが常套手段です。

 単純に面白いなぁと思う事象を、研究できる唯一の場所が大学でしょう。科学は新しい知を生み出すことが最も価値があり、役に立つか、お金を稼げるかはずっとプライオリティーが低いことです。