夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

『あなたの「食」にまつわる体験を書いて下さい』

 私の勤める大学の1年次の講義に、学科の教員が複数で担当する概論の講義があります。毎年、私もその講義を数回担当していますが、講義の終わりに必ず次のような課題を出しています。

 『あなたの「食」にまつわる体験を書いて下さい』

 出題の意図は二つあり、一つは学生の文章の作成能力をみることと、もう一つはどのような学生が入学してきたのか、学生の人となりを知ることです。

 自由記述なのでいろいろな体験を書いてくれます。海外での食事に驚いた体験、小さい頃から続けている変わった食生活、自慢の郷土料理など。

 そのなかでも、特に多い感想は、なんといっても「大学生になって一人暮らしになり、自炊をすることで食の大切さに目覚めた」というものです。毎日ご飯を作ってくれていたお母さんへの感謝の言葉を書く学生が意外と多いのに、驚きます。

 逆に言えば、一人暮らししていない自宅通い学生は、食に対しての感謝の気持ちは沸きにくいのかもしれません。

 食するという行為は、一日3回、一年で1000回以上、それを何年も続けていけば、食事が目の前に出されることが当たり前のように感じるのもある意味当然かもしれません。食を自分で調達しなければならない状態になってはじめて、食事を作ってくれる人や、食に関わる人へのありがたさに気づき始めるのでしょう。

 その人の「食」の経験というは、その人の育ってきた環境や考え方などを表す大変いいキーワードだと私は思っています。誰でもものを食べるので、親しくない人とのきっかけに食にまつわる体験を聞くことは、その人のバックグラウンドを知る上で私は重要視している質問の一つです。