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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

食の安全を伝える”技術”

 多くの消費者は、食の安全に関わる農林水産省厚生労働省などの官庁が発表することに対して「専門用語が多すぎてよくわからない」とか「何か大事なことを隠している」と感じています。この原因には、1.発信側(官庁や食品メーカー)の問題、2.発信内容の問題、3.発信方法の問題、4.受け取り側(消費者)の問題などがあります。

 食の安全には、メッセージの送り手と受け手がともに情報を共有する「リクスコミュニケーション」という考えが不可欠です。効果的なコミュニケーションを行うためにはどうしたらいいか、今回は、「発信側の表現技術」を紹介したいと思います*1

 食の安全のコミュニケーション図るためには、まず消費者側がどのように発信された情報を受け取るかを考えなければなりません。

 リクスコミュニケーションの受け手が最も重要視するのは、ずばり「公平さ」です。情報の送り手側が「公平さ」を示すと、消費者の信頼度が増すことが分かっています。

 この「公平さ」を消費者が感じるためには、どうしたらよいか? それは、メッセージに「真実性」と「配慮性」が含まれていることがキーポイントです。

公平さ
真実性、配慮性

 まず「事実性」は、「正確さ」(リスクメッセージに科学的根拠や正確な情報が感じられる)、「開示度」(リスク対象の危機可能性もオープンに述べている)、「遮蔽感のなさ」(都合の悪い情報を隠していない)、の3要素から構成されています。

真実性
正確さ、開示度、遮蔽感のなさ

 次に「配慮性」を構成するのは、「平明さ」(かみ砕いた言い方で表現が平明)、「尊重」(受け手を馬鹿にしたり命令的な言い方ではない)、「発言の機会」(受け手の声を聞いたり、問い合わせに応じそうな感じがする)の3つです。

配慮性
平明さ、尊重、発言の機会

 実際のお役所の発表は「正確さ」の「事実性」があっても、「平明さ」や「尊重」などの「配慮性」に欠けた役人言葉や高慢な発表方法が使われがちで、しかも当人がそのことに気づいていない場合が多いです。このことが、受け手にギャップと不信感を抱かせる原因となっています。

 そのため、効果的なコミュニケーションを行うためには、役所や食品メーカーなどが発信するメッセージの中に「真実性」と「配慮性」を感じさせる言葉が両方含まれるように設計する必要があります。

 このリスクコミュニケーションの信頼性形成に必要な「公平さ」を感じさせるための表現技術は、普段の私たちの生活へも十分応用できるのではないかと、ふと思いました。例えば、私の場合は「教員→学生」、会社でいえば「上司→部下」、ブロガーでいえば「書き手→読み手」の間に、この「真実性」と「配慮性」を含む「公平さ」の表現方法を意図的に使えば、情報発信側が「うまく、伝わらないなー」と感じるようなコミュニケーションも、ちょっとは改善に繋がるのではないでしょうか。

 

*1:食品の開発、2009年1月号、p.7-9