夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

安ワインが”特級品”に変わる方法

 クーリエ・ジャポン3月号に載っていた記事から*1。元ネタはイギリスの科学雑誌のNew Scientistの記事*2

 最高級ワインの味が最も美味しくなるのに、最低20年はかかるといわれています。通常のワインでも最低6ヶ月は寝かさないと飲めるような代物にはなりません。しかしあることをたった数分しただけで、まずくて飲めないワインが特級品に変わる方法が開発されました。

 それは、ワインに”電気を流す”というシンプルな方法でした。

 この手の研究としては珍しく、学術雑誌にきちんと報告しています。中国広州の華南理工大学の研究グループらによる報告です。

The effects of AC electric field on wine maturation


Xin An Zenga, Shu Juan Yua, Lu Zhangb and Xiao Dong Chenc


Innovative Food Science & Emerging Technologies
Volume 9, Issue 4, October 2008, Pages 463-468

 テスト用のワインに、3ヶ月寝かした若いカベルネ・ソービニヨンのワインを使いて、電圧と電流を変えて実験を行っています。ベテランのテイスターがブランドテイスティング評価を行った結果は驚くべきものだったようで、短時間で処理したものでさえ、粗くて渋いワインがまろやかになったそうです。最も味が良いと評価されたワインは、600ボルトの電圧を3分間かけたもので、熟成ワインのような香りが生まれ、さらに、ブドウの特徴がしっかりと現れていたとのこと。

 伝統的な製法を大事にするフランスのブルゴーニュ大ワイン醸造学の教授が「電界(電場)を使って熟成を加速させると、熟成時間を短縮し、若いワインの品質を改善することができる。」とこの論文の感想を述べています。

 私は論文の原文は読んでいないので分かりませんが、要旨には化学分析でも電場をかけたワインとそうでないものには違いが見られたと書いてはありましたので、電気を流すことでブドウ成分の何かしらの変化は起きているようです。

 安全性にはあまり問題の無さそうな方法ですので、ひょっとしたらワイン製造に革命をもたらす技術かも知れません。もうすでに中国のワインメーカーがこの方法を試しているようです。電気ブランならぬ「電気ワイン」が私たちのテーブルを飾る日は以外と近いのかもしれません。

 

*1:Courrier Japon, March 2009, p.132

*2:[http://www.newscientist.com/article/mg20026873.500-how-to-make-cheap-wine-taste-like-a-fine-vintage.html:title=New Scientist, How to make cheap wine taste like a fine vintage. 17 December 2008]