夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

冷凍食品の原産地表示の問題

 石原都知事ががんばったおかげ?で、今年の6月から、都内で流通する冷凍食品の原産地表示が義務化されます。メーカーは、都内向けと他の地域向けに表示の対応を分けるのは難しいので、事実上、多くのメーカーの冷凍食品が原産地表示を求められることになるでしょう。
 そんな原産地表示の記事が中日新聞に載っていました。

食乱2009 都独自の冷凍食品新ルール


 昨年一月の中国製ギョーザ中毒事件発生から一年が経過した。同事件を受け、東京都は独自に調理冷凍食品の原材料原産地表示の義務化を始めている。六月からの本格実施をにらみ、冷凍食品メーカーも対応に躍起だ。だが、表示拡大の実効性に疑問の声も上がっている。 (服部利崇)
 「消費者が適切かつ安心して食品を選択できる」ことが都の新ルールの目的だ。
 原材料の原産地表示について日本農林規格(JAS)法では、生鮮食品とそれに近く加工度の低い食品には義務づけているが、調理された冷凍食品を含む加工食品には表示義務はない。しかし、昨年十月の農林水産省調査では八割を超える消費者が加工食品にも「原産地表示すべきだ」と回答、情報を求める声が高まっていた。
 石原慎太郎知事は「東京は日本最大の消費地。(国より)先に(原産地表示を)やるのが東京都の責任だ」と、都独自の規制ルールをつくった。昨年八月、都消費生活条例を改正し、表示を義務化した。五月まで経過措置として従来の表示は認められるが、六月から本格実施される。
 対象製品は国内で調理され、都内で消費者向けに販売される調理冷凍食品。問題の冷凍ギョーザは中国で調理されたため対象外になる。
 JAS法で表示が義務づけられている原材料が対象で、材料重量が製品全体の5%以上のもので上位三位以内の品目になる。同法では材料重量の50%以上を占める原材料が対象なのに対し、5%以上と対象を広げることで、多品種少量の原材料が使われている調理冷凍食品も規制できるようにした。
 エビピラフの「エビ」など、商品名に使われている原材料も対象=イラスト。ソーセージやかまぼこのように複雑な加工品や、調味料は表示義務がない。
 問題は、表示場所だ。冷凍食品メーカー大手「ニチレイフーズ」品質保証部の片山博視部長は「原材料の調達を海外に頼る傾向が強く、品質や供給の安定のため、季節や価格変動リスクを避けて複数の原産国から仕入れるなど原材料が頻繁に切り替わる」と事情を説明。その上で「お客さんの要望には応えたいが、容器包装に間違いを起こさず表示するのが難しい」と話す。
 業界の声に配慮してか、都食品監視課は「容器包装への表示が原則」とする一方で、表示困難な場合は、インターネットや電話、ファクスでの情報提供も認めている。
 日本冷凍食品協会の山本宏樹常務理事は「現段階では、容器包装に表示するメーカーはごく限られ、ほとんどはホームページ対応と聞いている」と言う。
 「このままでは、全部ホームページだけでの記載になりかねない」と指摘するのは、消費者問題研究所の垣田達哉代表だ。同課はそれを認めた上で、「メーカーが困難と言えば、それを信じる。こちらは検証できないから」と表示の実効性に疑問が残る。
 垣田さんは「容器包装に書かないと意味がない。ホームページを見て購入する人がどれだけいるのか」とメーカーの姿勢を批判する。
 日本消費者連盟の山浦康明事務局長は、都の姿勢にこう疑問を投げかける。「日本メーカーの技術力なら、コストダウンを図りつつ対応できる。都は『メーカーは難しいと言っている』と代弁して、消費者の望む改革を疎んじている」


(2009年2月3日 中日新聞

 消費者が冷凍食品の原産地表示で知りたいのは、「中国産」か「そうでないか」でしょう。現在,「国内産=安心」、「中国産=あぶない」という図式が成り立っていますが、実際、原産地と食品の「安全」とは別な話で、国内産でも危ない食品があるでしょうし、中国産もほとんどは安全な食品でしょう。

 食の偽造や食の安全を揺るがす事件ラッシュで、消費者はとにかく少しでも「安心」なものにすがりたいという心理が見え隠れしています。

 私は冷凍食品など加工食品の原料原産地表示*1*2はした方がいいと思っています。季節によって原産地が変わったり、たくさんの原材料を使っている食品など、表示が難しいという問題はありますが、できる範囲内で可能な表示をすればいいのです。

 包装容器への表示場所がないとか、表示に手間がかかるとか、そんなことはたいした問題ではありません。知りたい人がいれば可能な限り正直に知らせることが、今の日本の食の不安を解消する唯一の方法ではないでしょうか。

 しかし、食品の原産地表示がホームページのみの記載であったら、ほとんど意味がありません。商品のパッケージに二次元バーコードを印刷しておいても、携帯電話でサイトにアクセスして原産地を確認してから商品を買う人などほとんどいないでしょう。保健申し込み時に細かく難解に書かれている契約書の説明文と一緒で、後から「ちゃんと(ホームページには)載せてありますよ」という会社側の言い訳に使われるのがオチです。

 加工食品に原産地表示すれば、消費者は日本はいかに海外から食品を輸入しているのか今以上に分かってしまうはずです。加工食品に使われる原材料は、実際、中国産など外国産であふれかえっています。外国産を避けてばかりいれば、食べるものはおのずと限られてきます。今回の冷凍食品の原産地表示義務化は、消費者が日本の食料自給や食料生産を見直すいいきっかけになるかもしれません。

 買い物中に商品の裏に書かれている表示を見て「この商品も外国産、これもまた外国産」と外国産表示ばかりに目がいくと、消費者の食の不安は一瞬高まるかもしれませんが、食の現状を知り、今後どう対応すればいいかを考えるためには大変いいチャンスだと思います。私が心配なのは、消費者が「不安を感じるぐらいだったら、表示そのものを見ないようにしよう」というような現実逃避的な思考に至ることで、食の情報を遮断してしまうことの方が食の安全の未来を考えると恐ろしい気がします。

 また、メーカー側の表示偽装はこれまで以上に増え、さらに巧妙化していくかもしれません。

 外国産に不安を感じる人は大変多いですからで,その不安につけ込んで、外国産を国内産と偽装するモラルのない会社は存在するでしょう。しかし、原産地偽装が即罰則となるように、JAS法が改正される方向にあります。また、今は、たった一つの食品偽造が明らかになっただけで、社会的制裁により最悪倒産ということが起こりうる時代です。
 これからは、倫理に反することをしている企業は、内部告発によってどんどん倒産し、真っ当な商売をしている会社こそが生き伸びるでしょう。私は、そんな「まっとうな」会社を応援して行きたいと思います。

 

*1:[http://www.maff.go.jp/j/press/syouan/hyoji/080319.html:title=農林水産省/加工食品の原料原産地表示の推奨について]

*2:[http://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/05/s0528-5a.html:title=加工食品の原料原産地表示について]