夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

フグの内臓食は危険なギャンブルだ

 昨日のフグの食中毒の続報を見て、さらに唖然としました。

 山形県鶴岡市の飲食店でフグの白子(精巣)を食べた7人が意識障害になるなどした中毒事故で、店長(65)は白子料理を作ったのは初めてだった。
 フグに関する知識もほとんどなかったという。
 さらに、「トラフグ以外の白子に毒はないと思っていた」と打ち明け、捜査員を驚かせた。実際は逆で、トラフグの白子には毒がなく、今回出されたヒガンフグの白子には毒がある。


(2009年1月28日06時07分 読売新聞)

 フグの種類によって白子の毒性に違いがあるという知識が店主にかろうじてあったようですが、それを逆に理解していたとは、本当に恐ろしい話です。だから、知識のない素人にフグを触らせてはいけないのです。

 しかし、知識があればフグの中毒を防げるかというとそうでもないようです。

すし店主の男性フグ中毒で重体 有資格者、自分で調理


 すし店を経営する兵庫県明石市の男性(59)がフグの肝臓を食べて重体となっていることが分かり、同県明石健康福祉事務所が27日、発表した。男性は全身のしびれで自発呼吸ができず、人工呼吸器を装着して治療を受けている。
 県によると、男性は26日午後6時ごろ、自分が経営するすし店でトラフグを調理して客に提供後、残った肝臓を1人で食べたところ、全身にしびれが出るなどしたため、同日午後10時ごろ、救急搬送されて神戸市内の病院に入院。県は診察状況などからフグ毒による食中毒と断定した。
 同県では、県が開催する講習を受講すればフグ調理の有資格者となり、男性も受講済みだった。


(2008.12.27 18:15 MSN産経ニュース)

 講習を受けてフグの危険性を知っているはずの料理人が、自分で食べて中毒になってしまう。しかも、フグの中で最も危険な肝臓を食べてしまうなんて、自殺したいのかと思ってしまいます。

 フグの毒であるテトロドトキシンは、フグが自分の体内で合成するのではなく、食べる餌を通じて体に濃縮されるといわれています。そのため、フグの食性によってその毒性にばらつきがあります。つまり、あるフグの肝を食べても全く平気なのが、同じ種類でも、別のフグを食べたら死んでしまうということがありうるのです。

 100%危険なものであれば、普通、人は手を出しません。しかし、「大丈夫なときもある」フグに手を出してしまうのは、ある意味ギャンブルのような要素があるためでしょう。

 フグとのギャンブルに勝ったときはいいでしょうが、負けたときの代償は取り返しがつきません。フグの内蔵は美味しいといわれていますが、自分の命を賭けてでも食べたい人はいないでしょう。危険なフグの内蔵を食べることは、どう考えても「ハイリスク、ローリターン」のギャンブルです。