夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

入試とおにぎり

 高校時代、私は田舎の山奥の家から片道約1時間半かけて学校に通っていました。人が混み合う電車に乗るのがいやで、朝6時には家を出て、始発の電車で通学していました。

 たいてい家で朝食を食べる時間がなかったので、母親が昼食用の弁当と一緒に朝食用のおにぎりを二個持たせてくれました。一個は海苔で巻いたおにぎり、もう一個はごま塩をまぶしたおにぎりというのが定番でした。海苔のおにぎりには必ず梅干しが入っていました。

 朝炊きたてのご飯で握ったおにぎりは温かく、冬はそのおにぎりで手を温め、通学途中の電車の中や、朝まだ誰も来ていない教室でおにぎりを頬張っていました。

 毎朝、私が家を出る頃には、当たり前のようにおにぎりと弁当が食卓の上に置かれていました。そのため、高校時代、昼食を外で買って食べたという記憶がありません。

 母親が朝早く起きて作ってくれたおにぎりや弁当を目にすると、風邪でちょっとぐらい熱があっても、学校を休みたいと言い出せませんでした。高校3年間、皆勤でした。

 父親が私が小さいときに事故で死んだため、私の家は母子家庭でした。高校生当時、日本はまだ一億総中流と呼ばれる時代でしたが、自分の家は明らかに下流と分かる生活でした。高校2年の夏まで家で牛肉を食べたことがないくらいの貧乏でしたが、大学に進学したいという私のわがままを母親は認めてくれました。

 大学入試の日も、私は母親が握ってくれた大きくて、丸いおにぎりを食べたことでしょう。そのおかげかどうかは分かりませんが、第一希望の大学に合格することができました。

 明日とあさっては大学入試センター試験の日です。高校生の皆さんは、しっかりと栄養を摂って、明日からの試験に備えて下さい。