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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

食料自給率アップに最も大切なこと

食料自給率

 昨日、Youtubeを見ていたら、トップページに石破茂農林水産大臣が「Food Action Nippon」という食料自給率アップ運動をPRするビデオがのっていました。
 今の日本の食料自給率の低さはかなり深刻な問題です。日本の食料自給率が低い理由として、日本は山地が多いため耕作地面積が少ないとか欧米化による食生活の変化などがありますが、一番の問題は「国民の食料自給に対する意識の低さ」が原因ではないでしょうか。
 日本のサッカーがヨーロッパや南米のトップクラスの国に太刀打ちできない理由として、国民のサッカーに対する熱意が違うからだといわれることがあります。以前、私もオランダでサッカーの試合を見たことがありますが、その観客の熱気に圧倒されました。
 その国のサッカーの強さは、その国が培ってきた歴史、裾野への広がり、国民のサッカーに賭ける情熱を掛け合わせた総量によって反映されるものだと思います。式で書くと次のようになります。
その国のサッカーの強さ=歴史(時間)×規模(大きさ)×国民の熱意(思いの強さ)
 今でさえ、日本の人気スポーツになったサッカーですが、その歴史、裾野への広がり、国民の一人一人の熱意は、伝統国には遠く及びません。日本がサッカーでトップクラスになるためには、選手の技術向上よりも、まず国民のサッカーを見る目とその情熱が世界のトップクラスなることが先決です。
 多くの日本国民が、「日本のサッカー?、そんなの強くならなくていいよ」と思っていれば、日本のサッカーは100年経っても200年経っても今のままでしょう。逆に、浦和レッズファンのように日本全体が自分のチームを本当に強くしたいと熱望し、その情熱が蓄積していけば、日本のサッカーは必然的に世界のトップになっていくのではないでしょうか。
 話がわき道にそれましたが、食料自給率の向上も日本のサッカーの問題と同じだと思います。戦後の工業化の過程で、国民は、日本は工業製品を海外に輸出するかわりに、食料は海外から輸入しても構わないという考えにシフトしていきました。国の政策の結果、食料自給率が低下したともいえますが、日本の都市化にともなう国民の農業への軽視こそが食料自給率の問題の根源にあると思います。日本人は「食」には異常にこだわるのに、「農」への意識は極端に低いのです。
 私の実家は農家で、私自身、大学は農学部を卒業しました。「農」を間近に見てきた立場からみると、農業は国の根幹、人間が生きて行く上で最も大事な産業なはずなのに、国や国民はなぜ農業を大事にしないのか、ずっと腹が立っていました。今も腹が立っています。中国産食品の安全性の問題などで、地産地消や食料自給率の問題が一般でも注目されはじめていますが、私からすれば、今まで農業に見向きもしなかったくせに「何をいまさら」といった感じです。
 日本の農業は高齢化・人手不足で崩壊寸前です。世界が食料危機に陥れば、他国は自国の国民を優先するのは当然ですから、日本に食糧を分けてくれるはずがありません。戦争と同じように、食は命と直結しているので、危機が来てから考え始めては遅いのです。
 私は、日本人が農業、農業従事者に尊敬の念を持たないかぎり、日本の食料自給率が向上することはないと思っています。今の日本人が「農」に対してリスペクトを抱くかどうかも、これまでの経験から疑問に持っています。目の前に食べ物がなくなったときに、はじめて食べ物のことを考えるのではなく、普段から食べ物のこと、そしてその食べ物を作っている人に思いを馳せて欲しいと思っています。