夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

ゴリラが森に残り、ヒトが森から出た理由

 同じ霊長類であるヒトの祖先とゴリラを分けたものはいったい何だったのでしょう。私はそれが「食」だったのではないかと思っています。
 ヒトよりもより体の大きいゴリラは、基本的に草や木を食べる草食性です。果物や昆虫もたまに食べますが、体が大きいと基礎代謝が低いため、低カロリーの食事でも生きていけるのです。もしくは、低カロリーの食事でもいいように、体が大きくなったのかもしれません。
 草食を主体とする動物は、ゾウやウシなど体が大きな動物です。その大きな体の中の大きな腸内で、食べた草をゆっくりと微生物に発酵してもらいエネルギーを得ることができます。しかし、体の小さな動物たちはそんな余裕はないのですぐに栄養になる高カロリーの食事が必要です。
 ゴリラの住む森には、草木がたくさんあります。つまり、ゴリラにとって、食べ物が自分の周りを取り囲んでいる状態です。体が大きいため、敵に襲われる心配もありません。つまり、とても居心地がとても良い環境ですから、森を出る理由などありません。
 それに対して、ヒトの祖先はゴリラほど体が大きくなかったので、草だけでは生きていけるだけのエネルギーを得ることができませんでした。虫や死肉などカロリーの高い食物を得るために森の外へと出かけて行ったのでしょう。または、いろいろな物を食べられる雑食だったからこそ、森の外の食べ物の種類が限られた世界へも足を踏み入れることができたのです。