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夜食日記

食品研究者が夜中に「食」についてつらつら綴る日記。専門は、分子レベルの「食品学」「調理学」「栄養学」。「クックパッド食みらい研究所」特別研究員。分子料理・分子調理ラボ(www.molecular-cooking-lab.net)を主宰しています。食ほど体と心に影響を及ぼすものはないと思いませんか。

もちのリスクとこんにゃくゼリーのリスク

 毎年、正月期間に必ず次のような悲しいニュースを目にすることになります。

もちをのどに詰まらせ3人死亡 東京と埼玉で
 元日から2日にかけて、もちをのどに詰まらせて病院に搬送される人が相次ぎ、東京都と埼玉県で計3人が死亡した。
 都内では男女19人が搬送され、元日に八王子市の男性(88)が死亡。埼玉県では2日、上里町の男性(77)と川口市の男性(73)が、いずれも雑煮のもちをのどに詰まらせ死亡した。
 東京消防庁では「高齢者や子供が食べるときには家族がそばで見守って」と呼び掛けている。
MSN産経ニュース 2009.1.3 00:14

 このニュースを見て、昨年、幼児がこんにゃくゼリーをのどに詰まらせて亡くなった事件を機に、製造元のマンナンライフがその製造を一時中止したことを思い出しました。しかし、同じ窒息により多くの死者が出ているもちが、のどに詰まるからという理由で製造中止になったという話はこれまで聞いたことがありません。
 厚生労働省の「食品による窒息事故に関する研究結果等について」という調査によると、のどに詰まりやすい原因物質は432例中(消防調査)、「もち」が最も多く77例、次いで「ご飯」61例、「パン」47例でした。カップ入りゼリー(こんにゃくゼリーなど)は8例と、もちと比べるとごく少数でした。
 もちとこんにゃくゼリーのリクスの違いは何なのでしょう。こんにゃくゼリーを食べなくてもほとんどの人は生きていくことができるでしょう。しかし、もち、ご飯、パンなどの主食系の食べ物を、のどに詰まるから食べるなという理屈は現代人が生きて行く上で成り立ちません。そう考えるともちとこんにゃくゼリーの絶対的な危険度の差というのは存在せず(食べる頻度とか、ものの堅さとかはありますが)、人の都合によるものという気がしてきます。
 そもそも、食するというのは異物を体内に取り入れるという行為なので、どんな物でも窒息する可能性があります。上の厚生労働省の調査でも「流動食」で窒息した報告がありました。
 車は非常に便利な道具ですが、それと同時に交通事故を引き起こすことを私たちは知っています。しかし、毎日、私たちの体に栄養を届けてくれる食べ物が、まさか人ののどをふさいで、死に至らしめるとは普段誰も考えないでしょう。
 この食品へのガードの甘さが、今の食への安心安全の問題に大きく関わっていると思います。「食品は、薬と違ってゼロリスクだ」という幻想を抱きがちですが決してそうではありません。有機野菜にも天然のアルカロイド系の有害物質は微量に入っていますし、健康食品と呼ばれるのものも食べ過ぎれば必ず体を壊します。
 近年の食の問題が大きく取り上げられている理由の一つに、多くの人が食品自体を安全だと思っていたからではないかと私は考えるようになってきました。自分が当たり前と思っていたことやこれまでの常識が裏切られたとき、人は大きくショックを受けるものです。
 あまり気にしすぎるのも怖いのですが、食べるという行為はたまに危険を伴うことがあると思っておいた方が良いかもしれません。特に、そしゃく機能が未熟な乳幼児やその機能が低下した高齢者などが、もちであれこんにゃくゼリーであれ、のどに詰まりやすい食品を食べるときは、周りの人が十分に気を付けてあげることが重要です。