夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

おいしさ

焼き芋はどこまで甘くなるのか?―低温加熱による限界への挑戦

スーパーの入口付近などで「焼き芋」が売られているのをよく目にしますが、今巷でちょっとした「焼き芋ブーム」なのだそうです。私も買いたいと思う時に限って、だいたい売れ切れています。 サツマイモは、「蒸し芋」よりも「石焼き芋」にした方がおいしいの…

おいしさの理想―食の「真・善・美」

おいしい料理に興味を抱く人は、たくさんいることでしょう。 おいしさは美味しさ、すなわち「美しい味」と書きますが、文学、美術、音楽などの美が大学で扱われているのに対し、食の美についてはまだしっかりと体系化されて扱われていないのが現状です。 人…

「知性」アプローチの限界と「感性」との融合

東日本大震災の直後の仙台で、ラジオしか情報入手方法がなかった頃。そのラジオから流れてきたある情報がいまも頭に残っています。 震災下、被災者を襲うストレスに対してどのように対処すべきかというアナウンサーの質問の答えとして、ある大学の先生が「ス…

「衣・食・住」の順番と「感性・知性」のバランス

「衣食住」という言葉。すなわち、衣服、食事、住居は、どれも私たちの生活に無くてはならないものですが、なぜこの順番なのかと常々思っていました。 人が生活していく上で不可欠な順に並べれば、やはり食べなくては生命活動が途絶えてしまうので、「食」が…

「食の科学」と「食の芸術」は、なぜ軽んじられるのか?

「食」は人にとってなくてはならないものですが、「食」の科学は、科学の世界の中で必ずしも重要な学問分野として捉えられていないように感じます。 「食品学」や「栄養学」を生業にしている私でも、「物理学」や「分子生物学」の方がより“ 高尚”に見えます…

“真のおいしさ”を理解するには? 「知性食い」と「感性食い」

「料理と科学のおいしい出会い」という本を書き、料理のおいしさを科学の面から迫りましたが、執筆している最中、私の頭の片隅である声が絶えず聞こえていました。 「科学だけで、おいしさがわかると思うなよ。」 料理と科学のおいしい出会い: 分子調理が食…

「ソーセージは餃子のように焼け!」@dancyu

今日、dancyu編集部のSさんから、最新号のdancyuが送られてきました。dancyu (ダンチュウ) 2014年 12月号出版社/メーカー: プレジデント社発売日: 2014/11/06メディア: 雑誌この商品を含むブログ (1件) を見る 特集の一つである下の記事の内容に関して事前に…

塩レモンがおいしくて、塩ブドウがおいしくない理由

前回のエントリーで紹介した自家製「塩ブドウ」。 塩レモンブームに乗って、「塩ブドウ」を作ってみたら… - 夜食日記 あまりの“おいしくなさ具合”にその理由を考えたくなりました。 そもそも、多めの塩と果物との相性がいい食品の例といえば、ブームとなって…

『グミケーキ』のトラウマ

米原万里さんの「旅行者の朝食」を読んでいたら、『トルコ蜜飴』という単語が出てきて、おもわず心が乱されました。 「なんておいしそうな名前なんだ。どんな色や形をしているのかわからないが、食べてみたい!」 そんな感覚にさせてくれる、おいしいネーミ…

コオロギでだしを取る@世界のベストレストラン

6月に入りました。6月といえば、あさって6月4日は、虫の日ですね。 昨年、国連食糧農業機関(FAO)が昆虫食を推奨する報告書を発表し、多方面で話題となりました*1。 今年に入っても、ハーバード大学の卒業生、女性3名が「コオロギチップス」を考案し*2…

美しいものがおいしいのではなく、おいしいものが美しい。

サイエンスにおいて、しばしば美しい形に出会うことがあります。顕微鏡で覗いたミクロの造形に心奪われ、夢中になって観察することがあります。しかし、それは決して意図したものではなく、あくまで結果としての美です。 美が、研究を推進する動機となること…

分子調理=分子調理“学”×分子調理“法”

前のブログでも書きましたが、エルヴェ・ティス氏は「分子ガストロノミーは技術ではなく科学である」と定義しています。分子ガストロノミーといえば、斬新な料理のイメージを抱かれる方も多いかと思いますが、創設者は目新しい料理に分子ガストロノミーとい…

ニューロガストロノミーの可能性と限界

「神経の」または「神経学の」という英語の接頭辞が「ニューロ(neuro-)」ですが、このニューロが付いた言葉が絶賛“増殖中”です。 ニューロエコノミクス(neuroeconomic、神経経済学)、ニューロマーケティング(neuromarketing、神経マーケティング)、ニ…

フードペアリング仮説 「“科学的”食材組み合わせ」による新メニューの開発

よく「日本料理は“引き算”の料理、フランス料理は“足し算”の料理」といわれます。 日本料理は、余計な調理を極力省き、素材そのものの味を引き立たせることを優先させるのに対し、フランス料理は、多彩な食材を組み合わせ、深みのあるソースが味のベースにな…

「煮ても硬いタケノコがスプーンですくって食べられる」という技術

おととい、日本食品科学工学会の東北支部主催の市民フォーラムがあり、裏方で手伝いをしたのですが、興味深い話を耳にしてきました。 フォーラムのテーマは「介護食のユニバーサル化」という、高齢化社会に向けた食についてのお話でした。 高齢の方でなくて…

「料理は科学ですね」

さっき見ていたNHKの連続テレビ小説の「ごちそうさん」で、主人公のめ以子(杏さん)が、スコッチエッグの熱伝導を話す下宿生の悠太郎に「料理は科学ですね」といっていました。 科学を知っていると料理は格段においしくなりますが、科学は料理のおいしさの…

多彩な“食感”を生み出す「トランスグルタミナーゼ」の分子ガストロノミーへの応用

食品のおいしさを増強させる反応に「熟成」があります。味噌や醤油、ワインやウィスキー、食肉や魚肉などを、適切な状態で適切な時間寝かせることによって、「おあずけ」されただけのことはあるおいしさを手に入れることができます。 熟成の反応は、基本的に…

“Umamiバーガー”から考える「うま味」の存在意義

前回の「うま味」のブログ記事*1に関連したネタを一つ。 「Umamiバーガー」ってなに? 現在、マクドナルドで「クォーターパウンダー」の数量限定「¥1,000バーガー」キャンペーン*2が行われていますが、CMからはおいしさ感がにじみ出ていますね。 バーガーの…

昆布と椎茸の“合わせだし”が最強の理由 うま味「相乗効果」の分子メカニズム

私が「卵」の研究者だからかも知れませんが、「茶碗蒸し好き」と公言する方に、かなり会ってきた気がします。 フタを開けると立ち上がる上品な香り、つるりとした食感、そして日本人の遺伝子に組み込まれたほっとする「ダシ」への安心感などが、満腹でも茶碗…

シェフは将来、心理学や脳科学が“必修”になる?

昼食がよくパン派かごはん派かに分かれるように、朝はトーストと目玉焼きとか、卵かけごはんなどの定番の食事になる人が多いでしょう。 一般的に家で食べる食事は、いつもの食事を求めがちなのに対し、たまに外食する場合などは、普段とは変わったものが食べ…

舌から脳までの“おいしさ情報”の「伝言ゲーム」

料理を食べて「おいしいっ!」と感じるプロセスは、食べものの「情報」を脳に伝える「伝言ゲーム」のようなものです。 例えば、味覚では、食べものの中に含まれる「味分子」が、舌の味蕾にある味細胞の表面にある「味覚受容体」にくっつきます。 受容体に味…

“おいしさ”は料理の中ではなく、脳の中にある

先日、久しぶりに外で焼肉を食べました。パワーを得たい時は、やはり肉ですね。 炭火で肉を焼く際、網の上で焼かれる音、肉の焼き目、立ち上る香り、そして食べた時に肉からほとばしる肉汁の風味やとろける食感によって「おいしさ」を感じます。 おいしい料…

風邪を引いた時の“楽しみ”

先週末、不覚にも風邪を引いてしまいました。熱と頭痛と鼻水に悩まされました。 まともに風邪を引いたのは、実に5年ぶりぐらいでしょうか。 インフルエンザ流行時期の冬などは、手洗いやうがいなど、それなりに気を使って予防対策をしていますが、今時期、…

史上最大の“炒飯”大実験

最近は、料理好きな男子もまったく珍しくなくなりましたね。勤務先の大学にも「料理男子」たちがたくさんいます。元「料理“男子”」だった私もこの時代の好ましい変化に感慨深いものがあります。 本屋に行くと、そんな料理男子向けの雑誌がたくさん並べられて…

震災時、ココロをほっとさせた「甘いもの」

東日本大震災から丸2年。多くの人が手を合わせる姿を見、声を聞きました。 このブログで書きたいことはたくさんありますが、色々な感情が錯綜しましたので今はやめておきます。 代わりに、独立行政法人の農畜産業振興機構さんが発行している「砂糖類・でん…

ストレス時、女性は「過食」に、男性は「絶食」に向かう?

今日の大学1年生向けの少人数授業での話をひとつ。 「おいしさと食品開発」というテーマで、全7回の話をしていますが、今日のテーマは「おいしさの心理学」について、以前このブログでも紹介した「味わいの認知科学」という本のあるセクションについてディ…

未来の料理の行方

先週、私の誕生日で、大変ありがたいことに、研究室のラボメンバーに手作りの「卵型のケーキ」とプレゼントを頂きました。 「ケーキが卵型」なのは、私の専門が「卵の科学」だからです。2日がかりの力作だったそうで、「卵黄」部分のカスタードと生地の層が…

「“ゼリー”カップヌードルライト」いざ、実食!

前回からのつづき。 プッチンプリン、ならぬ「プッチンラーメン」をいただくことに。 ナイフとフォークで中心から切り、その縦断面を見てみると、 おぉ、まるで、“テリーヌ”のよう! 期待度がますます高まり、プルプルと黄金色に輝く「カップヌードルテリー…

「単調な食事を続けていると食欲がなくなる」のはなぜか?

以前にこのブログで話題にした「味わいの認知科学」*1という本の感想を一つ。 「食における“味わい”とはなにか?」について、分子生物学と実験心理学を専門とするお二方によって編集されたこの本。 読んでみて実におもしろい。読み進めていくうちに、線がが…

「京料理の挑戦:農芸化学とガストロノミーの融合」で思ったこと

年度末、京都と名古屋での学会をはしごし、仙台に昨日戻ってきました。私の研究室所属の院生と学部学生の口頭発表デビューがありました。いい経験になったことでしょう。 私もいろいろ「インプット」に励んだ学会シーズンでした。その中で、興味深かった京都…