夜食日記

分子調理学者。料理・調理のメカニズムを研究する大学教授。著書に『料理と科学のおいしい出会い』(化学同人)、共訳書に『The Kitchen as Laboratory』(講談社)など。分子料理・分子調理ラボ(http://molecular-cooking-lab.net)を主宰。関心は「食×科学×芸術」。

未来のレストランは「ロボット接客」が当たり前になるか 〜感情労働が強いる奴隷根性〜

 高級なレストランなどで、テーブルに着席するときに、ウェイターが椅子を引いてくれるサービスはあまり必要性を感じません。むしろサービスにはちょっと迷惑と感じるようなものもあります。仰々しいあいさつや、大勢での見送りなど。なぜ、そのような無用なサービスがあるのでしょう。

  無用なサービスが存在する理由のひとつとして、「従属性の商品化」がいわれています。人は誰しも他人に認められたいという「承認欲求」を持っています。さらに、対等以上に自分の優越性を認めてほしいという欲求があり、それが無用なサービスの存在理由なのでしょう。

 有用なサービスであっても、笑顔を無理やりつくらなければならない状況を強いられるのであれば、それは自分の情動を管理される「感情労働」です。そして接客業などでの感情労働が求められるのは、顧客への媚びであり、客が優越性の承認欲求を満たすためにあるといえるでしょう。

 将来、飲食業でロボット接客は増えるでしょうが、高級な店ほどロボットが感情労働に適さないことは容易に理解できます。リアルな人間型アンドロイドであっても、客が人間ではないと認識してしまえば、自分との優越性を得られないからです。感情労働は人間のあいだのみで意味を持つものです。

 感情労働の有害さは、感情労働をする人に不当な卑下を強いるところにあります。店員が客の優越性を承認することは、店員が自らの劣等生を認めることであるからです。店員が客に自分と同等の尊厳を認め、自然に笑顔が湧いてくるようであれば有害ではないでしょうが、無理があるのに笑顔をつくってしまうのであれば、奴隷根性が身に付いてしまったことでしょう。

 誰もが、飲食店の店員に、無愛想な顔より、笑顔を期待する気持ちはあるのではないでしょうか。そんな気持ちの背景に、承認欲求や優越性があり、それが感情労働や奴隷根性へ結びついていることを思いながら、ロボット接客の今後の行く末を見ていきたいと思います。

 

<参考図書>

情動の哲学入門: 価値・道徳・生きる意味

情動の哲学入門: 価値・道徳・生きる意味